掲載記事は シュピンドラー千恵子の執筆により、
オートメレビューオフィシャルサイト「安全工学講座」に連載中です。

グローバル時代の生き残り戦略

5) 製品コンセプトは自ら設定せよ
  【リスクアセスメント実践編:ステップ2】

どのメーカーにもありえる光景、営業が獲得したオーダーとその技術対応の難しさによるジレンマ。ある例をご紹介しよう。

営業部が仕事を取ってきた。海外の生産ラインに導入する安全機器の受注だ。客先は超大手企業でグローバル経営を推進しているところとあって、この受注は営業にとって大きな成果であることは間違いない。さっそく技術部に受注内容がまわされた。

顧客要求は、欧州及び北米規制への適合と任意認証の取得、そして機能安全の認証を取得することであることがわかった。加えてそれらの適合性を備えた上で納期は概ね6カ月後であることが知らされた。

製品性能に関する仕様確認はなされていたようだが、基準認証がらみの顧客要求内容が具体的にわからないまま受注してしまった。機能安全規格要求では製品のライフサイクル、各ステップにおいてリスクアセスメントを要求しており、SILレベルによって第三者機関の継続的監査を必要としている。製品コンセプト(概念)の設定によりリスクアセスメントを実施し続ける仕組みを持っていなければならず、ISO9000ではカバーしきれない。

このシステムがなかったこの会社は、IEC61508規格要求を紐解けば解くほど、一製品の技術基準適合レベルで済まない会社あげての対応が必要であることがわかった。規格要求とその会社の対応レベルを知らずして、納期を確約してしまい大汗をかいている一例である。

ユーザーの納期に応える努力はビジネス上妨げられない。しかしこの場合、製品が必要とする、あるいは将来必要とされるであろう規格要求を以前から検討し、早め早めの対応を心がけていれば営業も技術も苦労が半減できたかもしれない。経営側面におけるリスクマネージメントの欠如である。

さてコンセプトの設定はメーカーにとって最も重要な部分である。製品の種類と用途、使用環境、販売市場を決定しないと、適用法令や技術基準、適用規格などが定まらない。しかし一部のメーカーは、ユーザーの要求にばかり気を遣い、製品コンセプトが設定できない現状がある。法的責任者となるわけだからもう少し主体性を持ってほしいと思う。しかしユーザーは神様であり、ユーザー要求は当然無視できない。ならばその条件を聞こうではないか。

それがのめるかどうかの決定は規制や技術基準の多少の知識がないと難しい。時にはユーザーは基準で定められた規定値以外の要求をする時があるからだ。しかしながらこの場合、話し合いで解決できるか、あるいはCEマーキングのように2社間の同意により不適合を回避することができる。

一番困るのが、ユーザーが使用環境を開示しない場合である。この場合は、リスクアセスメントを十二分に行った上、最悪の場合を想定して適合評価しなければならないので、製品のパフォーマンス性が落ちるばかりか、適合性対応のためにメーカーが想定していた以上の費用、期間、再度設計、部品選定のやり直しなど、大変な話に発展してくる。

リスク回避のため、保身のためには、やはりまず自分が製品コンセプトを設定し、相手に伝えることである。「爆発性、可燃性環境では使うな」「取説を読んだオペレーターのみ使用させよ」など、意図する使われ方と責任範囲を設定し、それ以外を排除するように通知すればよい。承諾すればそれでよいし、承諾できない場合でも使用環境を知るための誘導質問になる。相手が何を意図しているか分からないうちは調整もつかないので、ベンダー側から誘導することによって、コンセプトを固めていく。

会社対応や製品実力以上のことを望まれた場合は、受注すること自体がリスクである。受注する場合としない場合とで、会社にかかるリスクを見積もった上で受注に臨んでほしい。営業は即オーダーを受けるのではなく、こういった点をフィードバックをかけながら受注する体制を持ち、また技術はユーザーを説得する技量と交渉術を身につけ、時にはノーといえる信念をもった頑固さも必要である。

(04年8月25日掲載記事)