もろもろ

連載記事

グローバル時代の生き残り戦略

弊社社長 シュピンドラー千恵子の執筆により、
オートメレビューオフィシャルサイト「安全工学講座」に連載中です。

35) 企業リスクマネジメント 第25話〜脆弱な日本の安全管理〜

 私は小さい頃からジェットコースターが好きで、そのスリルを絶叫するために長蛇の列に並んだものだ。しかし、小さなわが子と乗るようになり、そして「安全」に関わる仕事をするようになってからはコースターが上へ上へと昇って行く数10秒の間に、“老朽化してガタがきてないだろうか”“激しいカーブで車輪が外れないか”等と考えるようになった。本来の期待されたスリルにドキドキするのではなく、このコースターは大丈夫か、事故は起きないかという不安が強くなっていた。そういった意味では、過日に起きた大阪吹田市のエキスポランドのジェットコースター事故は、私には想定された事故であった。

 調べによると脱落した車軸の先端部分にはナットとワッシャーがねじ込んであり、ナットの緩みを防ぐ「割りピン」が軸に差し込まれている構造で、運行開始から15年も交換していなかった車軸は、長年の滑走でナットと割りピンの間に隙間が生じ、それ故、車軸に想定外の負荷がかかり金属疲労の末破断したことが原因だった。こういった「隙間」は特殊な器具で確認しなければわからないから、超音波等で内部の傷の有無を調べる探傷試験が昨年JISの検査に追加されたのに事故が起きるまで、この検査項目があることを同社は知らなかった。さらに新アトラクションを優先しスペースが確保できなかったからとして、年に一度の解体検査も実施されていなかった。そしJISの基準が求める検査を行っていないにもかかわらず、市は「問題なし」と報告、さらにひどいことに、市は詳細の検査内容を確認せずに報告書を受理していた。

 事故機と同じタイプのコースターがある他の施設では、それぞれ金属疲労を想定した独自基準を設定し、耐用年数や稼動回数を考慮して異常がなくとも6、7年で車軸を交換しているのに対し、同社は何の基準も設けずに15年間も放置していたのである。例年の検査を怠った上にいい加減な報告をし、行政も甘い検査の横行を許した結果の事故なのだ。さらに私が驚愕したのは、同社によって事故後に設置された「安全対策特別共同技術委員会」のメンバー構成である。これほどずさな管理体制の下で生まれた殺人機を運転しておきながら、メンバーは委員長に同社の取締役施設営業部長、社外からは同社にも出入りしている遊具施設メーカー4社。しかも、うち2社は同社の山田社長が会長を務めるいわば、“身内”構成。いくら専門知識がある設計者とはいえ、バイヤーとサプライヤだけでは公平性が確保されているとは思えず、利害の抵触ないようには見えない。この委員会に安全設計工学等の有識者、検査機関、リスク分析ができる専門家といった、この遊具に潜在的に潜むリスクを限りなく低減できる方策を知る安全のプロを含めないと十分な安全対策効果は得られない。

 そもそもジェットコ−スターは大人数が乗る運送機械であるのに、鉄道や航空機に使われる運輸関係の法律ではなく、建築基準法で規制されている。よって管轄は国交省住宅局建築指導課であり、管轄の自治体が事故調査することになっている。両者ともにそういった安全管理の専門家はいないと言う。監督側がJISの知識も不十分で、いい加減な報告書すら判断できるシステムがない。しかも、関係法規が、同じ建築基準法であるからといって、エレベーターとジェットコースターなどの遊具施設の基準書が一緒で、「良好であること」などといった曖昧な記述ばかり。

 そういえば、六本木ヒルズの回転ドア事故、耐震偽造事件、昨年起こったマンションエレベーター事故、いずれも同課が所管であることに気が付いた。個別の事故が、その度にクローズアップされるが、国がしっかり知識とシステムを持って管理できないのに中途半端に“管理”するから悲劇は後を絶たないのではないか。事故を起こした当事者の責任は追及されるが、監督官庁の責任はどう果たされるのであろうか。同じ事故を繰り返さないためには、国の安全管理システム自体を見直すことが急務であることは間違いない。

(筆者=ナノテックシュピンドラー株式会社 社長・シュピンドラー千恵子)

HOME : もろもろ : グローバル時代の生き残り戦略