掲載記事はナノテックシュピンドラー社長 シュピンドラー千恵子の執筆により、
オートメレビューオフィシャルサイト「安全工学講座」に連載中です。

グローバル時代の生き残り戦略

27) 企業リスクマネジメント 第17話 ~想定の甘さ、技術基準の盲点~

3月に起きた2歳の女児がシュレッダーで指9本を切断した事故が、5カ月以上経った今、公表された。そして、その後5紙に社告を掲載したのだが、回収するといっているわりには、社告サイズ10×7センチと小さく、新聞を読んでいても見逃す位であった。社告の存在がわかったのは、ホームセンターからの文書通知があったからである。実は私はこの当該機種を購入していたのだ。

しかし、この社告、ホームページを読んでも反省と誠意が伝わってこない。「事務所での使用を前提としていた紙投入口や取り扱い説明書で、子供から離れた場所で使用をお願いする安全対策をしていた。経済産業省への報告を直ちにしなかったのは該当団体に所属しておらず、通達を入手していなかったから」など、言い訳が多い。「電源をいれた状態で2歳のお子様が誤って紙投入口に指をいれた」とあるが、人は穴があると指を入れたくなる心理があり、2歳の子となると興味の塊の頃、興味津々に手指を入れる事が自然であり、決して、うっかり「誤った」わけではないのだ。まして警告表示などまったく意味のないもの。メーカーはオフィス用で業務用途であるとするが、それはユーザーが決めることである。ホームセンターで簡単に誰しもが購入できるし、オンラインショッピングも可能で、販売制約は一切していない。

となると、これは事務機器で設計されたとしても、ユーザーは限定していないので家電製品ともいえる。オフィスに子供がいないとの想定も甘い。大企業ならともかく、いまやSOHOや子供も出入りできるあらゆる職場が想定されるので、この考え方は一掃すべきである。

また、さらに憤慨するのは、こういった大変な事故を起こしながらも、つい最近まで当該機種を売り続けていたことであり、なぜ企業責任において販売済み4万5000件ものポテンシャルな第2の被害者を防ぐ行為にでなかったのか。

さて、処理枚数を上げる目的で紙投入口を8ミリとしたため、子供の指が入ったとのことだが、それはスリットの幅の問題もさながら、紙投入口のエンクロージャーの材質が弱く、ペコペコにまがることのほうが問題であると、未だ手元にある機種で実証してみてわかった。これでは私の指も入り、子供にとっては大きな穴にはまる感覚であったに違いない。

確かに業界において紙投入口についての明確な安全基準はなく、事務用機器の規格には、危険性のある可動部には使用者が触れることの出来ない機器構造とするか、触れる状態になったときには危険性を確実に除去できる「安全インターロック」付き「エンクロージャ」内部に可動部を取り付け、「使用者が触れることの出来る部分」を保護することにはなっているが、危険性のある当該可動部が機器の機能に直結していて(例えばシュレッダーの可動部)、使用者が危険性を理解し、取り扱い説明書やラベルに警告記述があれば、使用者は可動部に触れることができるようになっていてもよい。

このように事務機器の規格試験をして安全性を確認し、PSEマークまで付いているのに、事故は後をたたない。規格要求を満足するだけでは、安全性は確保できないということを示す良い例である。機械の安全設計で主に使用されるリスクアセスメント(ISO14121)を実施し、裁断、切断、巻き込まれのハザードを限りなく取り除いた本質設計にしていれば、事故は防げたかもしれない。

紙投入口を狭くすると共に、カッターまでの距離を47ミリ以上とし投入口からカッターを離すなどして、子供の指が届かないようにした設計の他社製品もある。カバーを付け、紙投入口を隠し、子供の興味を呼び込まない方法もあるだろう。

キッズデザイン協議会が、子供仕様の製品を研究している。メーカーは規格適合に甘んじず、自己の想定を過信せず、安全な製品の創出により一層の注意を払っていただきたいと願うと同時に、国は業界統一の安全基準の制定に一刻も早く手を打って欲しい。

(06年8月30日掲載記事)