24) 企業リスクマネジメント 第14話 〜セミナーに潜在するリスク〜
巷には、様々な有料セミナーが数多く開催されている。私も受講することがあるが、自分では得難い情報や、独学では時間がかかるものを、数時間で専門家により確かな情報を得られる手軽さは、対価を支払うに値する。特に法律や規制に関する確かな理解を得るためには、法文の難しい文章を端から端まで読まなければならず、時に何を意味しているか分からない場合や解釈に行き詰まることがある。
その点セミナーでは、中身を噛み砕いて説明を受けられ図式や実態をもとにレクチャーをしてもらえるので理解がし易く、かつ勉学のみに時間が費やせない忙しい社会人には合理的である。そこには、情報を有料で提供する側と、それを買い、情報を得ようとする側の利害関係が発生する。これはまさに、教壇に立つ教授と生徒の関係ではなく、ビジネスとして立派に成り立つ商取引なのである。
先日、海外で行われた日本の法規制セミナーについて、受講者から話を聞く機会があった。感想は、「資料が一般的情報であった」「スピーカーが知識不足だった」「質問に対する答えに何一つまともに答えられなかった」「法律がグレーであるという一辺倒の対応だった」「通訳者に知識がないようで、訳文がちんぷんかんぷんだった。」「結果的に受講する以前より混乱した」。
また、さらに「スピーカーの態度が大柄だった」と資質においても問題視しており、不満をあからさまに表していた。そしてこのセミナー料金は、日本からの通訳を含めた航空運賃と滞在費をカバーしても、なお利益が出る勘定で設定された高いものであり、一般聴講者が約200人であれば売上高2000万円は下らないだろうと、そのプアーな内容に相反する高い料金に憤慨していた。
あまりにも不満だったか、支払った料金を返金しろというクレームをつけているという。この彼は私にクレームを付けているわけではないが、私は既に開催側の立場に立って話を聞き込んでしまった。明日はわが身かもしれないと背筋が寒くなったからである。
一般聴講者に有料セミナーを開催するということは、販路開拓のためによく使われる手法であるが、セミナーの出来高によっては料金返金などの物理的損害のほか、一般に恥をさらし、コンピテンスのなさを露呈し、強いては会社に対する信頼喪失につながる大変リスキーな行為でもある。スピーカーのミスアサインや準備不足があれば、それは会社への大きなクレームにつながり、開催しないほうが賢明である。有償とする以上、その対価が内容に値するものを提供すべく万全を期さなければならないことは誰しも理解するであろう。
仮に返金されたとしても聴講者に良い印象は残らない。この後のイメージ回復をどのように行うか、会社として最も注力しなければならないことであるのに、担当上司や幹部は往々にして、この事実に気付いていない場合が多い。社員であり、まして“スペシャリスト”で名を通している人はなおさらプライドが高いので、自ら失敗報告はしがたいであろうと想像に難くない。
上司のウイークポイントは、専門性の高いものを専門家に任せ切っていることにより、内容の評価が自分自身でできないことである。これを解決するためには一本釣りによるスペシャリスト集団を作るのではなく、複数のスペシャリストを並列し、後継者を同時に養成し縦組織を形成するほかない。大手企業においてよく見られる、上司はジェネリスト(管理職)、部下はスペシャリスト(専門家)という組織体は、部下が上司の無知さを馬鹿にし、専門については口を挟まず我々に任せろという逆転現象を作り易くしてしまう。
そういう姿勢で生徒を甘く見た結果が、聴講者(顧客)を憤慨させ会社への損害につながらないよう、会社は販促行為のひとつにもリスクの存在を常に意識し、慎重に取り組まなければならない。
(06年4月26日掲載記事)