掲載記事はナノテックシュピンドラー社長 シュピンドラー千恵子の執筆により、
オートメレビューオフィシャルサイト「安全工学講座」に連載中です。
16) 企業リスクマネジメント 第6話 〜あなたは役員になれる?〜
サラリーマンが目指す最終的なゴールはなんだろう。役員になり、会社の経営に携わることであろうか。
企業によるが、ある一定の年齢になり、仮にその社員が優秀であるとするならば、ジェネリストかスペシャリストかを選択する時期が来ることもある。ジェネリストとはマネージャー、スペシャリストとはマイスター、前者は幹部候補・役員コース、後者はその道を極める職人コースとしよう。しかし役員コースの場合、サラリーマン時代にはないリスク?が待っている。
サラリーマンは雇用契約により会社に雇用されている立場である故え、労働基準法に従って経営者よりはるかに手厚く保護されているが、取締役や監査役といった役員は会社から委任され経営を任されているので、普通の人が「うっかりしていた」ですまされても、経営プロとみなされる役員の義務違反によっては、それ相当の損害賠償を伴う責任を追及されるからである。
そもそも株式会社は株主のものであり、取締役は会社から経営を委任されているわけだから、「善管注意義務」や「忠実義務」を怠ると商法266条(会社に対する責任)、商法267条(株主の代表訴訟)、266条ノ3(第三者に対する責任)を根拠としてその役員個人が責任を追及される。
株主代表訴訟とは、簡単にいえば「会社に損失を与えたのは、経営を委任している役員の責任であるから、自分たちの個人財産をもとにして会社へ与えた損害を弁償しろ」という株主からの訴訟である。平成5年10月に商法が改正され、「株主権の強化」を目的に株主代表訴訟の手続き費用も一律8200円になったことから、株主代表訴訟の提起は日常的に行われるようになり、訴訟件数は急増したという。悪質な不正、不祥事だけでなく、投資の失敗や、経営の不手際、判断ミスにいたるまで様々な理由で告訴されている。
ここでは、野心の強いあるサラリーマンの愚かで悲しい終焉を紹介しよう。
彼は野心が人一倍強く、直属上司とも仲が悪かったため、役員にゴマをすり、めでたく一足飛びに役員になった。その後、彼自身の役員になる以前の不祥事が発覚し、その末経営がおかしくなったことを知った株主は、当該役員を含む会社に対し、彼の不正行為に関する訴訟を起こした。そうすると、それを回避するために、その会社の役員は会社の業務を別会社に移し自分達も移動、会社として責任をとらないばかりか、この会社を意図的に破産させた。
この時点では、役員は会社を倒産させることで損害賠償請求を免れた。己の不祥事により招いた損失を回避するために無理やり倒産させ、別会社に移動するといった個人的な利益を優先し、詐欺的行為及び誠実を欠く背信行為をしてしまった。株主は当初の損害の他、投資していた会社を破産させられた追加の損害を蒙った。したがって、株主は、その役員個人の責任を追及することに方針を替え、彼個人に対する株主代表訴訟の提訴に踏み切ったのである。
この事例はちょっと極端な例ではあるが、要は役員の経営責任は大変重く、経営者に求められるのは当然ながら良き社会人としての良識をもてということだ。最善の努力をしたにもかかわらず、経営目標が達成できなかったという程度で、株主代表訴訟を起こされることはまずない。
経営判断の法則に基づき、役員が個人的な利害関係をもっている、会社や株主に対して背信している、判断が重大かつ明白な誤りである場合は訴訟の対象になり、仮に敗訴すれば個人の資産を投げ打って会社や株主に損害賠償しなければならない。法令違反など公序良俗に抵触する場合は賠償責任保険も払われない。数億円賠償請求も珍しくない。会社役員であることは、それなりのリスクを伴うことを忘れてはならず、まず自分の人格が適任であるかを問う必要がある。
(05年8月31日掲載記事)
