掲載記事は シュピンドラー千恵子の執筆により、
オートメレビューオフィシャルサイト「安全工学講座」に連載中です。
14) 企業リスクマネジメント 第4話 〜リスクマネージャーと専門家〜
安全な航海のために、海図や気象情報というデータが必要とされるのは、暗礁や嵐というリスクが船を沈没させ、船乗りの命を奪い、財産を海の藻屑としてしまった船乗りの間で経験的に学習されたからであろう。それらデータは最新技術の解析を加え改善され、世界中の船乗りの間でリスク情報として共有されている。
しかし、企業経営において、あらかじめ準備されたデータはない。業種、会社規模、経営者・社員の品質等ひとつとして同じ企業はなく、一般経営法則は参照できても適用方法は会社それぞれ違ってくる。また経済状況の変化や法改正で、データを毎年適用できるとも限らない。
まさに企業は人間の子供と同じであり、親は常に健康を第一に考え、継続的に教育し、立派に成長させなければならない義務があり、またそれが醍醐味であると感じる毎日である。
「健康第一」とは不足の損失発生の回避、企業収益の安定を意味し、「継続的な教育」とは、製品やサービスの開発・改良といったプラスの企業努力のほか、継続的リスクマネージメントの実践による負の回避及び低減のための企業努力を意味する。
躾、情緒形成、自己の確立、社会とのかかわり等「継続的教育」がいかに大切か、親の認識ひとつで子供の成長に大変影響することはいうまでもなく、これはまさに、経営トップのリスク認識ひとつで経営に影響を及ぼすことと同じである。
私が会社を子供のように思ってしまうのは、「継続的教育」が日々山積みであり、子供を病気にさせないよう、突発的な事故にあわせないように、私自身が努力する責任を大いに感じているからかもしれない。というのも社員数50人の場合は家族を含め250人、500人の場合は2500人もの人の生活がかかっており、取引先、下請先、関連会社への安定したお付き合いに多大なる影響を及ぼし、社会に迷惑をかけてはならないという気持ちがあるからである。
しかしながら、会社全体の「継続的教育」であるリスクマネージメントプロセスにおけるリスクの洗い出し、分析、評価、対処を経営トップ自らが実践するには無理がある。なぜならば設計・製造・品質・サービス、法務、労務、財務など専門的角度において、デイリーに現場を把握することができないうえ、最も大切な仕事であるリスク評価の後の対策意思決定に、神経を集中できないからである。
よって、リスクマネージャーを配置し、専門的角度からリスクの洗い出し、分析、評価する権限を委譲しなければ実践が伴わなくなる。そのプロセスの過程には他部門との相談、調整や、担当役員への報告が含まれ、実際には弁護士、公認会計士などの外部専門家の意見も交えた企業内のリスクを処理するためのコーディネーター的存在である。
例えば機械や電気製品の設計においては、市場にあわせた製品づくりのために、その国の技術基準を満たさなければならず、IEC規格(国際電気規格)、EN規格(欧州規格)、UL規格(北米任意規格)などの専門家、専門機関に相談し技術基準を織り込んだ設計をすることで、設計手戻りを防ぎ、正しい部品の選択を行えることが出来る。
安全設計プロセスは製品安全を大前提としているため、企業にとって大変大きなリスク回避の一つであり、PL訴訟を回避、あるいは対応する一端を担うこともできる。またコンカレントエンジニアリングで、無駄な経費を削減できるメリットもある。しかし、社内専門家がいないせいか経営陣にとって見落としがちなところである。是非メーカーには会社の大小にかかわらず、多大な損失を防ぐために、技術法規を含めた製品リスクマネージャーを配置してほしいと望む。
(05年6月29日掲載記事)
